童話コンテスト

童話コンテスト
応募候補作品その1『まけないもん』
昔々、ある所に『どじまや』というそば屋がありました。店主の『みゃっさん』はそばの腕が天下一品。そば屋一筋三十年の達人でした。しかし、ひねくれた性格で、大の負けず嫌い。人をバカにして怒らせる達人でした。そば屋で人を雇っても
『こんなのびきったそばじゃ、ダメだ!ワシみたいにすばやく作らなきゃ。』
『ダシのカツオが死んでるよ、このつゆ!』
『うちのそばは日本一の味!誰にも負けないもん!』
みんなみゃっさんに腹を立てて、仕事をやめてしまうのでした。

さて、どじまやの隣にもう一件『おそば・えん』という老舗そば屋がありました。店主『えんのすけ』が病にかかってからは妻の『おたき』と娘の『おあき』が、一生懸命お店を守っていました。
『おたき、おあき、いつもすまねえなあ。』
『なぁに言ってんだい、おとっつぁん!』
『そうだよ、あたし達に任せなよ!』
派手さはないけれど、人情味あふれる温かさがこの店の売りなのです。
ある冬の日、一人の男の子がどじまやの戸を弱々しく開けて入ってきました。年は十才ぐらい。服は雪で濡れていて、寒くてブルブル震えていました。
『お、おい、そばを・・・そばをくれぬか?』
子どもに命令口調で言われたみゃっさんは、少々頭にきながらもそばを出しました。
『かけそば、へいおまち。してお主、金は持っておるのか?』
そばを一口食べた男の子が答えます。
『うむ、十五文持っておるぞ』
かけそば一杯の値段が十六文。これでは一文お金が足りません。
『じゃあだめだ!金が足らないなら、帰れ❗』
『金はあとで必ず払うから、一文まけて、そばを全部食わせてくれ!』
男の子は必死にお願いしましたが、
『ワシは一文だってまけないもん!今お前が食べた分が十五文だ!あと一文は必ずあとで持ってこい、さあ帰れ❗』
男の子はそばを残して追い出されてしまいました。

その様子を見ていたおたき。がっかりしていた男の子を
『あんた寒いんだから、うちのそば食べてきな。』
とお店へ迎えてくれました。
おあきができたての温かいかけそばを出してくれました。
『いや、もう金は持っておらぬのだが・・・』
『ああーいらないよ!今日はおおまけにまけてタダだよ!持ってけドロボー!』

(次コミュへ)

留言